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東京高等裁判所 平成5年(ネ)5347号 判決

控訴人

足利瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

石川尚志

(ただし、被控訴人柳田隆夫、同石川尚志、

同黒田文雄、同堀越利男に対する関係を除く)

右訴訟代理人弁護士

丸山幸男

右代表者監査役

木村隆一

長谷俊夫

(ただし、被控訴人柳田隆夫、同石川尚志、

同黒田文雄、同堀越利男に対する関係についてのみ)

右訴訟代理人弁護士

神谷保夫

控訴人補助参加人

松島甚三郎

共同訴訟的補助参加人

松島商事株式会社

右代表者代表取締役

松島甚三郎

共同訴訟的補助参加人

足利団地ガス株式会社

右代表者代表取締役

島田哲夫

共同訴訟的補助参加人

小池達雄

五島敏男

島田和正

布川雅博

右七名訴訟代理人弁護士

吉沢寛

被控訴人

柳田隆夫

石川尚志

黒田文雄

堀越利男

両毛丸善株式会社

右代表者代表取締役

長谷俊夫

被控訴人

稲村利幸

黒田智恵子

大協建設株式会社

右代表者代表取締役

津久井義夫

被控訴人津久井庄作訴訟承継人

津久井義夫

被控訴人

細見孝三

右一〇名訴訟代理人弁護士

小沼洸一郎

主文

一1  原判決中の被控訴人稲村利幸に関する部分を取り消す。

2  被控訴人稲村利幸の訴えを却下する。

二  被控訴人稲村利幸に係る部分を除くその余の本件控訴をいずれも棄却する。

三  被控訴人稲村利幸と控訴人との間の訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人稲村利幸の負担とし、被控訴人稲村利幸を除くその余の被控訴人と共同訴訟的補助参加人らとの間の控訴費用は共同訴訟的補助参加人らの負担とし、補助参加によって生じた費用は、補助参加人の負担とし、その余の控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人補助参加人及び共同訴訟的補助参加人ら(以下「参加人ら」という。)

1  原判決中の控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴をいずれも棄却する。

第二  事案の概要

本件は、被控訴人らが、控訴人が昭和六二年二月二八日及び同年三月一九日開催の各取締役会決議(以下、二月二八日の取締役会決議を「第三決議」、三月一九日の取締役会決議を「第四決議」といい、右各決議を合わせて「本件決議」という。)に基づき、同日行った記名式額面普通株式六六万株の新株発行(以下「本件新株発行」という。)が、

1  新株発行差止仮処分命令(宇都宮地方裁判所足利支部昭和六二年(ヨ)第一一号。以下「本件仮処分命令」という。)に違反し、

2  商法二八〇条の四第二項に違反し、

3  定款(甲三の一)五条の定めに違反し、

4  本件新株発行が著しく不公正な発行方法によるものであり、

無効である旨主張して、商法二八〇条の一五の規定に基づき、本件新株発行を無効とするとの裁判を求めたところ、原判決が被控訴人らの請求を認容したので、参加人らが控訴をした事案である。なお、控訴人は、原審において、被控訴人らの請求を認諾する旨の陳述をしており、被控訴人らの請求を争っていない。

一  前提となる事実(各当事者間に争いがない事実は特に証拠を掲記しない。)

1  控訴人は、ガスの供給、液化石油ガスの販売等を業とする株式会社である。

被控訴人稲村利幸(以下「被控訴人稲村」という。)を除くその余の被控訴訴人らは、いずれも控訴人の株主である。

被控訴人稲村はもと控訴人の株主であったが、平成六年三月頃、所有株式全部を譲渡して株主の地位を喪失した者である(甲一〇三、弁論の全趣旨)。

参加人松島甚三郎(以下「参加人松島」という。)は、本件決議及び本件新株発行当時、控訴人の代表取締役であった者であり、その余の参加人らは控訴人の株主である。

2  控訴人の株式の概況は次のとおりである。

(一)  額面株式一株の金額 五〇円

(二)  発行する株式の総数 一九二万株

(三)  発行済株式数 一四四万株(本件新株発行前は七八万株)

(四)  株式の譲渡制限 株式の譲渡には取締役会の承認を要する。

(五)  新株引受権 控訴人の株主は、発行する株式の総数のうち未発行株式につき新株引受権を有する。

ただし、取締役会の決議により新株の一部につき公募し、又は役員、従業員、顧問及び相談役にその引受権を与えることができる。

(六)  公告をする方法 官報に掲載する。

3  控訴人は、昭和六一年一一月二九日開催の取締役会において、次の新株発行を決議し(以下「第一決議」といい、第一決議に基づく新株発行を「第一次新株発行」という。)、同年一二月八日、第一次新株発行についての公告がされた。

(一)  発行新株数 記名式額面普通株式六六万株

(二)  割当方法

(1) 二三万四〇〇〇株は、同年一二月二三日午後五時現在の株主名簿に記載してある株主に対し、所有株式一株につき新株0.3株の割合をもって割り当てる。

(2) 四二万六〇〇〇株は、役員及び従業員等に割り当てる。

(三)  発行価額

(1) 株主等新株引受権を有する者に対する割当分は五〇円

(2) 役員及び従業員等に対する割当分は二〇〇円

(四)  払込期日 昭和六二年一月一二日

4  被控訴人柳田隆夫外三名は、昭和六一年一二月二三日、宇都宮地方裁判所足利支部に対し、第一次新株発行の差止めの仮処分命令の申立て(同裁判所昭和六一年(ヨ)第九一号事件)をした。同裁判所は、同月二六日、第一次新株発行を差し止める旨の仮処分命令(以下「先行仮処分命令」という。)を発し、右命令は同日控訴人に送達された。

また、被控訴人柳田隆夫外三名は、先行仮処分命令の執行のため、同裁判所に対し、昭和六二年一月七日、間接強制の申立てをし、更に同月八日、代替執行の申立てをした(甲三六、三七)。

5  控訴人は、昭和六二年一月一七日開催の取締役会において、第一決議を白紙撤回する旨の決議(以下「第二決議」という。)をし、同年二月二日、その旨の公告を行った。

6  控訴人は、昭和六二年二月二八日開催の取締役会において、次の内容の新株発行の決議(第三決議)をすると共に、同年三月七日、第二決議に基づいてされた前記5の公告を取り消す旨の公告を行い、同月一九日開催の取締役会において、第三決議に基づく株主割当分のうち二五万五〇〇〇株を共同訴訟的補助参加人両毛団地ガス株式会社に割り当てる旨の決議(第四決議)をし、本件決議に基づいて、同日、本件新株発行がされた。

(一)  発行新株数 記名式額面普通株式六六万株

(二)  割当方法

(1) 三九万株は、昭和六一年一二月二三日午後五時現在の株主名簿に記載してある株主に対し、所有株式一株につき新株0.5株の割合をもって割り当てる。

(2) 二七万株は、控訴人の定款五条ただし書に基づき役員に対し次の割合で割り当てる。

① 参加人松島 一〇万株

② 菊地房次郎 七万株

③ 布川昇 七万株

④ 菊地文雄 三万株

(三)  発行価額

(1) 株主等新株引受権を有する者に対する割当分は五〇円

(2) 役員及び従業員等に対する割当分は二九〇円

(四)  払込期日 昭和六二年三月一八日

7  被控訴人柳田隆夫外三名は、昭和六二年三月七日、宇都宮地方裁判所足利支部に対し、本件新株発行差止めの仮処分命令の申立てをしたところ、同裁判所は、同月一三日、控訴人が第三決議に基づき新株を発行することを差し止める旨の仮処分命令(本件仮処分命令)を発し、右仮処分命令は同月一六日控訴人に送達された。

二 争点及び当事者の主張

1  参加人らの参加申立ての適法性について

(一)  被控訴人ら

補助参加ないし共同訴訟的補助参加は、本案の係属が前提であるところ、控訴人は、既に原審において被控訴人らの本件請求を認諾し、控訴人と被控訴人らとの関係では訴訟が終了しているから、右補助参加ないし共同訴訟的補助参加は参加の利益を失っており、参加人らの右各参加の申出はいずれも却下されるべきものである。

(二)  参加人ら

被控訴人らの主張は争う。

2  本件新株発行は本件仮処分命令に違反し無効か

(一)  被控訴人ら

一般に、仮処分命令に違反する新株発行が有効であるとすれば、商法がその二八〇条ノ一〇において差止請求権を株主の権利として特に認め、しかも仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうから、仮処分命令に違反する新株発行は無効であるところ(最高裁判所平成元年(オ)第六六六号平成五年一二月一六日判決参照)、本件新株発行は、控訴人が本件決議に基づき新株を発行することを差し止める旨の本件仮処分命令を無視してされたものであるから、本件新株発行は無効である。

(二)  参加人ら

(1) 本件仮処分命令は、疎明によって発せられる暫定的裁判であるから、本件仮処分命令に違反した新株発行の効力を否定することは許されない。すなわち、新株発行差止めの仮処分は、いわゆる満足的仮処分であって、会社業務に重大な影響を与えるものであり、一旦仮処分命令が発せられると、会社がその命令を争うには取消、異議、執行停止等の申立てによらなければならないが、本件仮処分命令は、民事保全法施行前に発せられたものであるから、判決手続による外はなく、この効力を覆すには莫大な時間が経過してしまうところ、その間にも会社の財政的基盤、経営上の必要等々新株発行によって対処しなければならない事態が必然的に生じる。このような会社が置かれている状況を無視して、仮処分命令違反という形式的瑕疵を新株発行の実質的無効原因にまで強める解釈は、仮処分債権者たる一部株主の利益に絶対的保護を与える結果となり、認められるべきではない。

(2)① 右(1)の主張が認められないとしても、新株発行差止めの仮処分命令が適正手続を経ず、かつ、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられた場合にも仮処分命令違反の一事をもって新株発行を無効とすることは不正義以外の何物でもない。被控訴人ら掲記の最高裁判決は、適正手続を経て出された仮処分命令の存在を当然の前提としているものである。先行仮処分命令及び本件仮処分命令は、後記②、③のとおり、いずれも適正手続を経ず、かつ、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられたものであるから、右各仮処分命令に違反するからといって本件新株発行が無効とされることはない。

② 先行仮処分命令については、昭和六一年一二月二三日に被控訴人柳田隆夫外三名から仮処分命令の申立てがされたが、第一決議で定められた払込期日は、昭和六二年一月一二日とされており、右申立てから右払込期日まで二一日間あって控訴人に対する債務者審尋を行う余裕が充分存在したのみならず、裁判実務上、新株発行差止仮処分事件においては当然に債務者審尋がされているにもかかわらず、宇都宮地方裁判所足利支部は、債務者審尋をすることなく先行仮処分命令を発したものであり、先行仮処分命令は手続が不当である。

また、先行仮処分命令は、第一次新株発行の目的、必要性、配当の減少、発行価額の妥当性等についての被控訴人柳田隆夫外三名の事実に反する一方的な主張及び疎明に基づき、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられたものである。

③ 控訴人は、先行仮処分命令に従い、第一決議を白紙撤回して第一次新株発行を中止したところ、それまで第一次新株発行の差止めを求めていた被控訴人らが、その態度を一変させて、新株発行をしなければ取締役の損害賠償責任の対象となる旨参加人らを恫喝した。そこで、参加人らは、本件新株発行をすることを決意し、第三決議をしたが、被控訴人柳田隆夫外三名は、本件新株発行の差止めを求めて本件仮処分命令の申立てをした。このように、被控訴人柳田隆夫外三名の右申立ては、権利濫用に基づくものである。また、宇都宮地方裁判所足利支部は、昭和六二年三月一三日、当時の控訴人の代表取締役である参加人松島に対する債務者審尋をしたが、同日、直ちに本件仮処分命令を発しており、債務者である控訴人の主張に耳を傾けた形跡はない。

以上のように、本件仮処分命令も手続が不当である。

本件仮処分命令が、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられたものであることは、右②と同様である。

したがって、本件仮処分命令に違反して本件新株発行がされたことの一事をもって、本件新株発行が無効であるとすることはできない。

3  本件新株発行の手続が商法二八〇条の四第二項に違反し無効となるか

(一)  被控訴人ら

(1) 本件新株発行は、株主に対する新株割当日の定めがされておらず、またその公告を欠いているのにされたものであり、商法二八〇条の四第二項に明白に違反し無効である。

(2) 本件新株発行は、参加人ら主張のように第一決議に基づいてされたものではない。第一決議に基づく第一次新株発行は、第二決議により完全に撤回されており、第一次新株発行と本件決議に基づく本件新株発行との間には同一性・継続性がない。したがって、第二決議及びこれ基づく公告を更に白紙撤回したからといって、第一次新株発行のためにされた割当日の指定及びその公告を本件新株発行についての割当日の指定及びその公告であるとすることはできない。

(二)  参加人ら

(1) 第三決議は、第一決議の新株発行決議条項のうち、株主・役員に対する割当及び発行価額について修正決議をしたものである。したがって、割当日を昭和六一年一二月二三日午後五時現在とする指定及び右割当日の指定につき第一決議に基づいて同月八日行われた公告は、第二決議に基づいて取り消され、昭和六二年二月二日、取消公告がされたものの、第三決議に基づいて同年三月七日、更に右取消公告の取消公告がされたことによって、結局、当初の昭和六一年一二月八日を割当日とする割当日の指定及び右割当日の指定につき同日された公告が有効となった。

(2) 控訴人は、控訴人の定款一五条をもって「毎年一月一日から定時株主総会終結の日まで株主名簿の記載の変更を停止する。」旨定めており、第一決議から第三決議までの間は株主の変動は無いから、第三決議によって第二決議を取り消し、第一決議に基づいてされた割当日の指定及びその公告の効力を復活させたとしても、新株引受権を有する株主に不測の損害を与える事情にはなかった。したがって、仮に本件新株発行について割当日の指定及びその公告がないと評価されたとしても、これが本件新株発行の無効原因となることはない。

4  本件新株発行は、控訴人の定款五条に違反し無効か

(一)  被控訴人ら

控訴人の定款五条は、「株主は未発行株式について新株引受権を有する。ただし、取締役会の決議により新株の一部につき役員、従業員等に対してその引受権を与えることができる。」旨規定しており、この規定の趣旨及び「新株の引受権を有する株主はその有する株式の数に応じて新株の割当てを受ける権利を有する。」旨の商法二八〇条の四の規定によって、取締役会は、株主に対し、当然、かつ、優先的に新株を割り当てなければならない。このような新株引受権の性質からして、定款五条ただし書にいう「一部」とは極めて限定的に解されなければならず、本件新株発行のごとく、これを恣意的に解釈し、発行総数の三九パーセントにも当たる新株二七万株を、解任を求められている取締役、監査役に割り当てることは、右定款の定めに違反し、本件新株発行は無効であるというべきである。

(二)  参加人ら

控訴人の定款五条ただし書にいう「一部」の具体的範囲は、取締役がその忠実義務に従い、裁量によって決することができるものであって、株主の割当比率を発行新株の五九パーセントとする第三決議の内容が定款五条に違反することはあり得ない(河本意見書・丙五二の二)。

5  本件新株発行は著しく不公正な発行方法によるものとして無効となるか

(一)  被控訴人ら

本件新株発行の目的は、昭和六二年三月二八日開催予定の「取締役解任及びそれに伴う後任取締役らの選任」を目的とする臨時株主総会において、当時の控訴人代表取締役であった参加人松島及びその他の取締役等の役員が、取締役等の解任決議を阻止するため、二七万株もの大量の新株を当該取締役等に割り当て、その議決権を行使して解任の阻止を図ると共に、新役員の選任をも図ろうとするものであって、その発行方法が著しく不公正であり、無効である。

(二)  参加人ら

(1) 控訴人は、次の(2)のとおり新株発行による資金調達の必要性があって本件新株発行をしたものであり、また、本件新株発行後も参加人松島らの持株比率は取締役解任決議を阻止するために必要な三分の一に達しなかったのみならず、控訴人が第二決議により第一次新株発行を取り止めた際、それまで第一次新株発行の差止めを求めていた被控訴人らが、その態度を一変させて、新株発行をしなければ取締役の損害賠償責任の対象となる旨参加人らを恫喝したため、参加人らが本件新株発行をするに至ったものであり、本件新株発行が著しく不公正であるということはできない。

(2) 本件新株発行当時、控訴人は、新規消費者獲得のための本・支管設置工事等の設備投資資金として毎年約一億円、区画整理事業・下水道工事に対応するための設備投資資金として毎年約四〇〇〇万円、通産局から指導を受けて実施することが急務とされたマイコンメーター取付けの保安投資資金として約一億八〇〇〇万円、その外、立案中の葉鹿小俣地区への都市ガス供給のための設備投資資金として約六億七〇〇〇万円など莫大な資金調達の必要に迫られていたところ、売上げの四〇パーセントを超える銀行からの借入金があり、しかも控訴人の保有資産の大半が地中に埋設されたガス導管等であって銀行借入れの担保とならず、銀行からの借入れが困難な状況であったのみならず、控訴人の資本(発行済株式の総数)が他の同業者に比して過少であったため、新株発行による増資が必要不可欠な状況であった。

第三  当裁判所の判断

一  被控訴人稲村の原告適格について

商法二八〇条の一五の規定に基づく新株発行無効の訴えの原告適格を有する者は、当該会社の株主、取締役又は監査役に限られるところ、被控訴人稲村は、控訴人会社の取締役、監査役のいずれでもなく(本件記録中の控訴人の商業登記簿謄本の記載から明らかである。)、前記第二、一の前提となる事実1において認定したとおり、平成六年三月頃、所有する控訴人の株式全部を譲渡して控訴人の株主の地位を喪失したから、被控訴人稲村は、本件新株発行無効の訴えの原告適格を有しない。したがって、被控訴人稲村の右訴えは不適法であり、却下すべきである。

二  参加人らの参加申立ての適法性(争点1)について判断する。

被控訴人らは、補助参加ないし共同訴訟的補助参加は、本案の係属が前提であるところ、既に控訴人が原審において被控訴人らの本件請求を認諾していて控訴人と被控訴人らとの関係では訴訟が終了しているから、右補助参加ないし共同訴訟的補助参加は参加の利益を失っており、参加人らの右各参加の申出はいずれも却下されるべきものである旨主張する。

本件記録によれば、控訴人は、原審第二四回及び第二五回口頭弁論期日において、被控訴人らの請求を認諾する旨陳述していることが認められるが、本件新株発行無効の訴えのようにその訴えに係る判決の効力が参加人はもとよりのこと、その他の当事者以外の者にも及ぶ訴訟においては、被告とされた会社が請求を認諾することは許されず、認諾をしてもその効力は生じないというべきであるから、控訴人が原審においてした右陳述は民事訴訟法二〇三条の請求認諾としての効力を有せず、したがって控訴人と被控訴人らとの関係においても現在本件訴訟が係属していることが明らかであり、被控訴人らのこの点での主張は採用できない。

三  本件新株発行は本件仮処分命令に違反し無効か(争点2)について判断する。

1 商法二八〇条の一〇に基づく新株発行差止めの仮処分命令があるにも係わらず、あえて右仮処分命令に違反して新株発行がされた場合には、右仮処分命令違反は、右仮処分命令が当然無効であるなどの特段の事情がない限り、同法二八〇条の一五に規定する新株発行無効の訴えの無効原因となるものというべきである(被控訴人ら主張の前記最高裁判所判決参照)。

これを本件についてみるに、前記第二、一の前提となる事実記載のとおり、控訴人は、本件仮処分命令が存在することを知りながら、あえて本件仮処分命令に違反して本件新株発行をしたものである。そして、本件全証拠によるも、本件仮処分命令が当然無効であるなどの特段の事情が存在することを認めることができないから、本件新株発行は無効であるというべきである。

なお、参加人らは、第三決議は、第一決議の修正であり、第一決議ないし第三決議が一体性・継続性を有することを前提として、先行仮処分命令の不当性を論難するが、第一決議に基づく第一次新株発行の発行内容と第三決議に基づく本件新株発行の発行内容とを比較すると、発行株式数は同一であるものの、

(一) 株主に対する割当数及びその割合は、前者が二三万四〇〇〇株を所有株式一株につき新株0.3株の割合、後者が三九万株を所有株式一株につき新株0.5株の割合、

(二) 第三者に対する割当数が、前者は四二万六〇〇〇株を役員及び従業員等に、後者が二七万株を役員(いずれも取締役である参加人松島に一〇万株、菊地房次郎に七万株、菊地文雄に三万株、布川曻に七万株)に、

(三) 第三者に対する発行価額が、前者は一株当たり二〇〇円、後者が一株当たり二九〇円

となっていて、発行内容の重要な部分において大きな相違が認められ、第三決議は、第一決議の修正の範囲から大きく逸脱しており、新たな新株発行決議といわざるを得ず、第一決議ないし第三決議が一体性・継続性を有するとは認め難いから、この点での参加人らの主張は前提を欠き採用できない。また、先行仮処分命令が発せられるについては、債務者審尋がされていないが、民事保全法が施行される以前においては、新株発行差止めの仮処分のようないわゆる満足的仮処分であっても、債務者審尋の必要性、その方法、内容等は当該裁判官が事案の性質等を考慮しながら、適宜決定すべき裁量事項であり、必ずしも債務者審尋が義務づけられているものではなく、債務者審尋がされなかったことの一事をもってその発令手続が違法・不当になるものではない。宇都宮地方裁判所足利支部は、先行仮処分命令を発するに当たって、申請人である被控訴人柳田隆夫外三名から提出された疎明資料を審査し、債務者審尋をするまでもなく申請を理由があると認めて先行仮処分命令を発したと認められるから(丙九五ないし一〇四、一〇五の一ないし九の各一、二、一〇五の一〇ないし一五の各一、一〇五の一六ないし三六の各一、二、一六の一ないし二二の各一、二、一〇七の一ないし五二の各一、二、一〇八の一ないし五の各一、二、一〇九ないし一一二)、その発令手続に違法・不当な点があるとは認められない。更に、参加人らは、先行仮処分命令は、第一次新株発行の目的、必要性、配当の減少、発行価額の妥当性等についての被控訴人柳田隆夫外三名の事実に反する一方的な主張及び疎明に基づき、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられたものである旨主張するが、右主張は、結局先行仮処分命令を発するに当たっての右裁判所の認定を非難することに帰するものであり、その当否はともかくとして、右主張自体及び本件全証拠からして、先行仮処分命令が当然に無効であるとは認められない。次に、参加人らは、本件仮処分命令の発令手続についても、これが違法・不当である旨主張するが、本件仮処分命令が発せられるに当たっては、控訴人も弁護士である代理人に委任してあらかじめ仮処分命令が発せられるべきでないことを主張し、多数の疎明資料を提出している外、債務者審尋が行われるなど審理が尽くされているのであって(丙五四ないし六二、六三ないし六六の各一、二、六七、ないし九四)、その発令手続に違法・不当な点があるとは認められない。参加人らは、本件仮処分命令についても、被控訴人柳田隆夫外三名の事実に反する一方的な主張及び疎明に基づき、新株発行差止事由が存在しないにも係わらず発せられたものである旨主張するが、右主張も本件仮処分命令を発するに当たっての右裁判所の認定を非難することに帰するものであり、その当否はともかくとして、右主張自体及び本件全証拠からして、本件仮処分命令が当然に無効であるとは認められない。結局、参加人らの主張の事実をもってしては、本件仮処分命令に違反してされた本件新株発行を有効とすべき特段の事情があるとは認められない。

以上のとおり、本件新株発行は無効であるから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人稲村を除くその余の被控訴人らの請求は理由があると認められる。

四  よって、被控訴人稲村の訴えについては、不適法であるから、原判決中の被控訴人稲村に関する部分を取り消し、被控訴人稲村利幸の訴えを却下し、その余の本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する

(裁判長裁判官清水湛 裁判官瀬戸正義 裁判官小林正は転勤につき署名押印できない。裁判長裁判官清水湛)

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